8月28日(木) 遠征5日目 晴れ

Yちゃんの家を出ると、外は薄曇りで観戦にちょうど良さそうな天気だった。
東横線に揺られ、日吉へ。現地でやじまんちゃんと会う約束をしている。
駅からグラウンドまでは歩いて15分。駅前から出ているバスでも行ける。
コンビニでお昼ご飯を買ってから、この日はバスで行くことにした。
私はバスで行くのは初。徒歩で行くときとは違う道を走るので、興味深く窓の外を眺める。
くねくねとカーブを曲がるうちに、見たことのある景色が目に飛び込んできた。
3年ぶりに見る慶大グラウンドだった。

バスを降り、グラウンド脇の細い道へ入る。
右手にブルペンを見ながら奥の方へ進む。ブルペンではエース清見(4年)が投げていた。
「あ、清見だ」今日投げるのかな?清見好きには嬉しい♪

ブルペン横を過ぎると、一塁側(慶大用)ベンチ。その脇にグラウンドの出入り口があり、部員が出入りしている。
そこを過ぎて右に曲がると、バックネット裏にズラリと観戦用の椅子が。
やじまんちゃんは先に来て、やや三塁側のところに座っていた。
「日差しもそんなに強くなくて、観戦日和かもねー」
朝、家を出たときよりは青空が見えているが、持ってきた帽子もあまり必要なさそうな弱めの日差し。
気付けば、8月も残りあと3日。



慶大−東京ガス、試合は13時開始。
慶大野球部はオープン戦の際、その日のメンバー表を一般客にも分けてくれる。
チームのベンチ入りメンバー25人の一覧表と、試合前のメンバー交換表を並べてコピーしたもの。
両面コピーで、裏側には同じように相手チームのメンバー表が載っている。
チームによって部員名簿をくれるところはあっても、毎試合メンバー表をくれるところはそう多くないと思う。
これは観てる側にとってはかなりありがたいサービス。

慶大先発は清見。対する東ガスは安達。
…ん?安達?九州国際大出身?メンバー表の横の部員名簿に目を走らせる。
安達公則。出身高校には「大分商業」と書いてあった。ああ、やっぱり!
「安達くんって、あの安達くんかぁ!」
前に座っていたやじまんちゃんが振り返った。「やっぱり、そうですよね!?」
メンバー表をもらってから、ほぼ同じ流れで私と同じことを考えていたらしい。
以前甲子園に出ているのを見たことがある。大学を経てこの春から東京ガスに入社したばかりのルーキーだった。





オープン戦のメンバー表。
これは慶応サイド。裏面には東京ガスのメンバー表が。
左のベンチ入り選手一覧はポジション順に
名前・学部学年・身長・体重・投打・出身校と年齢が載ってる。
東ガスの名簿には会社での所属部署も載っていた(^^)



3回裏、慶大は1点を先制。
清見は立ち上がりから無難に抑え、安定したピッチング。スコアボードに0が並び続ける。

投手戦と言うと聞こえがいいが、貧打戦のようにも…(汗)
東京ガスには慶大OBで99年の主将だった山口、早大OBで01年主将を務めた末定らがいる。
かつて神宮で見ていた面々はあの頃と違うユニホームに身を包み、前より体つきも逞しくなっていた。
大学時代の山口は、ショートかサードを守っている姿しか見たことがなかった。
が、この日の終盤にはなんとファーストに回った。ファーストやってるのは初めて見た!
ボールが彼の所へ飛ぶ度ちょっとドキドキしたのはナイショの話(爆)


密かに私が1年時から注目し続けていたのが、慶大の4年生左腕・花岡正樹。
190cm・85kgの大きな体。学ラン姿で先輩の荷物を運んでいた1年の春から、いつか投げる姿を見るのが楽しみだった。
同期の清見が2年で頭角を表し、小林基や参鍋らも上級生になって出番が増えた。しかし花岡はなかなか出てこれずにいた。
リーグ戦ではここまで通算2試合に登板。6イニングを投げて0勝0敗、防御率0.00。

試合中盤、ふと一塁側に目をやると、体格のいい背番号20がいた。ブンブン素振りをしている。
そのときは「まさか…ね」と思っていたのだが、終盤、その“まさか”が現実であると知る。
慶大の攻撃で代打が告げられた。背番号20が意気揚々と打席に向かう。
見覚えのある体格、そして顔つき…。やがてアナウンスの声が全てを確信に変えた。
「バッターは、花岡」 …!!
隣にいたYちゃんも、前に座っているやじまんちゃんも「うっそー」という反応。そりゃ私だって「うっそー」だ。
野手転向。最後のシーズンを控えての決断だった。

パーンと乾いた音を立てて、打球はレフト方向へ飛んでいく。
私たちの驚きも冷めやらぬうちに、大きな背中の背番号20は一塁ベースへと駆けて行った。
いい当たりのヒットだった。とても投手から転向したばかりとは思えないバッティング。
私たちはそれで余計に言葉を失う。
最後のシーズンを控えているからこその、野手転向。
塁上に立つグレーのユニホーム、新生・背番号20。最後の最後まで、花岡という選手に注目していこうと思った。



試合は7回表に東ガスが一挙4点を奪い逆転。そのまま4−1で終わった。
慶大は継投が失敗。先発清見がよかっただけに残念。


試合前から、Yちゃんと私はベンチにいる林コーチに注目していた。
林卓史。97年春にリーグ優勝したときのエースだ。

あの年は主将の高橋由伸が注目されていたが、他のメンバーの存在抜きに優勝はありえなかったと思う。
そのチームの屋台骨となって活躍したのが林。そのピッチングはとにかく、鉄人と呼ぶのがふさわしかった。
96年には春・秋ともに70イニング以上登板。
97年は先発もする一方で、1学年下の松尾(現大阪ガス)や1年生の山本(現大阪近鉄)ら後輩のリリーフも務めた。
「守護神・林様」と呼ばれ、慶大の勝利の方程式の最後を締めるのは彼だった。
私が印象深いのは、彼の座右の銘「努力せずして夢語るな」という言葉。
日吉のグラウンドで、神宮のマウンドで。黙々と努力し、投げ続けてきた姿がその言葉越しにも見えてくるような気がした。

林はその後日本生命へと進んで野球を続け、今年から再び母校の慶大へ帰ってきた。
鉄腕の守護神が、今度はコーチとして。
あの座右の銘は今度は後輩に伝えられているのだろうか。
久しぶりに「KEIO」のユニホームに身を包んだ“林様”。元気そうな姿を見られて嬉しかった。


ネット裏から高いフェンスの上を見上げると、その上の空も少し高く感じた。
秋のリーグ戦開幕まであと2週間。
夏の終わりのこの空は、そのまま神宮まで続いている。


久しぶりの日吉の空気を満喫し、翌日は再び東京ドームへ行きました。
この夏最後の都市対抗観戦。
8月29日へ


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