Yちゃんの家を出ると、外は薄曇りで観戦にちょうど良さそうな天気だった。 東横線に揺られ、日吉へ。現地でやじまんちゃんと会う約束をしている。 駅からグラウンドまでは歩いて15分。駅前から出ているバスでも行ける。 コンビニでお昼ご飯を買ってから、この日はバスで行くことにした。 私はバスで行くのは初。徒歩で行くときとは違う道を走るので、興味深く窓の外を眺める。 くねくねとカーブを曲がるうちに、見たことのある景色が目に飛び込んできた。 3年ぶりに見る慶大グラウンドだった。 バスを降り、グラウンド脇の細い道へ入る。 右手にブルペンを見ながら奥の方へ進む。ブルペンではエース清見(4年)が投げていた。 「あ、清見だ」今日投げるのかな?清見好きには嬉しい♪ ブルペン横を過ぎると、一塁側(慶大用)ベンチ。その脇にグラウンドの出入り口があり、部員が出入りしている。 そこを過ぎて右に曲がると、バックネット裏にズラリと観戦用の椅子が。 やじまんちゃんは先に来て、やや三塁側のところに座っていた。 「日差しもそんなに強くなくて、観戦日和かもねー」 朝、家を出たときよりは青空が見えているが、持ってきた帽子もあまり必要なさそうな弱めの日差し。 気付けば、8月も残りあと3日。 |
慶大−東京ガス、試合は13時開始。 慶大野球部はオープン戦の際、その日のメンバー表を一般客にも分けてくれる。 チームのベンチ入りメンバー25人の一覧表と、試合前のメンバー交換表を並べてコピーしたもの。 両面コピーで、裏側には同じように相手チームのメンバー表が載っている。 チームによって部員名簿をくれるところはあっても、毎試合メンバー表をくれるところはそう多くないと思う。 これは観てる側にとってはかなりありがたいサービス。 慶大先発は清見。対する東ガスは安達。 …ん?安達?九州国際大出身?メンバー表の横の部員名簿に目を走らせる。 安達公則。出身高校には「大分商業」と書いてあった。ああ、やっぱり! 「安達くんって、あの安達くんかぁ!」 前に座っていたやじまんちゃんが振り返った。「やっぱり、そうですよね!?」 メンバー表をもらってから、ほぼ同じ流れで私と同じことを考えていたらしい。 以前甲子園に出ているのを見たことがある。大学を経てこの春から東京ガスに入社したばかりのルーキーだった。 |
![]() オープン戦のメンバー表。 これは慶応サイド。裏面には東京ガスのメンバー表が。 左のベンチ入り選手一覧はポジション順に 名前・学部学年・身長・体重・投打・出身校と年齢が載ってる。 東ガスの名簿には会社での所属部署も載っていた(^^) |
3回裏、慶大は1点を先制。 清見は立ち上がりから無難に抑え、安定したピッチング。スコアボードに0が並び続ける。 投手戦と言うと聞こえがいいが、貧打戦のようにも…(汗) 東京ガスには慶大OBで99年の主将だった山口、早大OBで01年主将を務めた末定らがいる。 かつて神宮で見ていた面々はあの頃と違うユニホームに身を包み、前より体つきも逞しくなっていた。 大学時代の山口は、ショートかサードを守っている姿しか見たことがなかった。 が、この日の終盤にはなんとファーストに回った。ファーストやってるのは初めて見た! ボールが彼の所へ飛ぶ度ちょっとドキドキしたのはナイショの話(爆) 密かに私が1年時から注目し続けていたのが、慶大の4年生左腕・花岡正樹。 190cm・85kgの大きな体。学ラン姿で先輩の荷物を運んでいた1年の春から、いつか投げる姿を見るのが楽しみだった。 同期の清見が2年で頭角を表し、小林基や参鍋らも上級生になって出番が増えた。しかし花岡はなかなか出てこれずにいた。 リーグ戦ではここまで通算2試合に登板。6イニングを投げて0勝0敗、防御率0.00。 試合中盤、ふと一塁側に目をやると、体格のいい背番号20がいた。ブンブン素振りをしている。 そのときは「まさか…ね」と思っていたのだが、終盤、その“まさか”が現実であると知る。 慶大の攻撃で代打が告げられた。背番号20が意気揚々と打席に向かう。 見覚えのある体格、そして顔つき…。やがてアナウンスの声が全てを確信に変えた。 「バッターは、花岡」 …!! 隣にいたYちゃんも、前に座っているやじまんちゃんも「うっそー」という反応。そりゃ私だって「うっそー」だ。 野手転向。最後のシーズンを控えての決断だった。 パーンと乾いた音を立てて、打球はレフト方向へ飛んでいく。 私たちの驚きも冷めやらぬうちに、大きな背中の背番号20は一塁ベースへと駆けて行った。 いい当たりのヒットだった。とても投手から転向したばかりとは思えないバッティング。 私たちはそれで余計に言葉を失う。 最後のシーズンを控えているからこその、野手転向。 塁上に立つグレーのユニホーム、新生・背番号20。最後の最後まで、花岡という選手に注目していこうと思った。 |
試合は7回表に東ガスが一挙4点を奪い逆転。そのまま4−1で終わった。 慶大は継投が失敗。先発清見がよかっただけに残念。 試合前から、Yちゃんと私はベンチにいる林コーチに注目していた。 林卓史。97年春にリーグ優勝したときのエースだ。 あの年は主将の高橋由伸が注目されていたが、他のメンバーの存在抜きに優勝はありえなかったと思う。 そのチームの屋台骨となって活躍したのが林。そのピッチングはとにかく、鉄人と呼ぶのがふさわしかった。 96年には春・秋ともに70イニング以上登板。 97年は先発もする一方で、1学年下の松尾(現大阪ガス)や1年生の山本(現大阪近鉄)ら後輩のリリーフも務めた。 「守護神・林様」と呼ばれ、慶大の勝利の方程式の最後を締めるのは彼だった。 私が印象深いのは、彼の座右の銘「努力せずして夢語るな」という言葉。 日吉のグラウンドで、神宮のマウンドで。黙々と努力し、投げ続けてきた姿がその言葉越しにも見えてくるような気がした。 林はその後日本生命へと進んで野球を続け、今年から再び母校の慶大へ帰ってきた。 鉄腕の守護神が、今度はコーチとして。 あの座右の銘は今度は後輩に伝えられているのだろうか。 久しぶりに「KEIO」のユニホームに身を包んだ“林様”。元気そうな姿を見られて嬉しかった。 ネット裏から高いフェンスの上を見上げると、その上の空も少し高く感じた。 秋のリーグ戦開幕まであと2週間。 夏の終わりのこの空は、そのまま神宮まで続いている。 |
久しぶりの日吉の空気を満喫し、翌日は再び東京ドームへ行きました。
この夏最後の都市対抗観戦。
→8月29日へ
遠征記トップへ